読み手を“ここではないどこか”に運び、“今この世界”に着地させる想像力——「九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子」(九井諒子) 今「面白い短編を読みたい」といわれたら、僕はたぶん真っ先に九井諒子の名前を挙げるだろう。「面白い」の意味するところが人によって違うのは承知の上だ。それでも、九井諒子という人の想像力は、絶対に見逃せない。 コミックスデビュー作である「竜の学校は山の上」から、第2短編集となる今作「竜のかわいい七つの子」まで、彼女は一貫して異世界を描いている。作品集のタイトルにも入っている竜のいる世界、神様が住む世界、人魚が暮らす世界などなど……どの作品にもファンタジーと呼ばれる要素が入れ込まれており、独特の世界観を作り上げている。 ファンタジーなど、物語の世界では珍しいものではない。むしろ物語にとって、フィクションの塊であるファンタジーは、得意中の得意と呼ぶべきジャンルだ。だが、九井