2010年8月31日。 報道陣がひしめく東京都内のホテルの会議場に、濃紺のスーツを着こなした小柄なイタリア人が姿を現した。第一声は「ボンジョルノ(こんにちは)」。就任記者会見に臨んだ新監督の顔が、無数のフラッシュを浴びて赤らんでいく。振り返れば、いまより若干、ふくよかに見える。 アルベルト・ザッケローニ。この時、57歳。プロ選手の経験なく指導者のキャリアを積み上げた、たたき上げ。 W杯優勝4度を誇る母国で「攻撃好きな戦術家」として名が通る。1997~98年シーズンにはセリエA(イタリア1部リーグ)でACミランを優勝に導いた。近年は成功に乏しく「過去の名将」と揶揄もされたが、人選にあたった日本サッカー協会技術委員長の原博実は力説した。「(ザッケローニが得意な)ピッチを広く使った大胆なサッカーをしてくれれば、もう1ランク、日本は上に行ける」 「勇気とバランス」。堅守でたぐり寄せたW杯南アフリカ