「実は、『近大マグロ』の稚魚の出荷は、近年ほとんど実績がなくなってきています」。近大マグロの養殖事業の現状について、近畿大学側は正直にこう明かす。同大学が32年の歳月をかけ、世界で初めてクロマグロの完全養殖を成功させたのは2002年のこと。2010年からは総合商社である豊田通商と共同で、完全養殖クロマグロの量産化事業を進めてきた。その取り組みはメディアでも多く取り上げられ、近大マグロの知名度は一気に高まった。しかし、クロマグロの完全養殖事業は、新たな局面を迎えている。近畿大学水産養殖種苗センターのセンター長である岡田貴彦さんに話を聞くと、近大マグロを通して、魚の完全養殖事業が抱える課題が浮き彫りになってきた。近大魚類の完全養殖に向き合う研究者の挑戦と、その先に見える魚食の未来に迫る。 ニーズがあるのに輸出できない近大マグロ 「近大が完全養殖のクロマグロの稚魚を出荷し始めたのが2004年。天