村上春樹が「エルサレム賞」授賞式で行ったスピーチをめぐって、いろいろと議論があるようだ。必要最小限のことだけ、明記しておきたい。 スピーチを受け止める側の多くが、単に村上の政治的な姿勢を問うていたはずであるにもかかわらず、たとえば「壁と卵」といういかにも村上らしい表現に引きずられて、その本来の問題提起をぼやかせてしまっていることに、かなりの違和感をわたしは感じている。ちょっとはっきりいうと、今回の村上のスピーチに賞賛を送るのは、もともとのヒューマニズムのそこの浅さが、露呈してしまっているのではないか。 確かに村上は、イスラエルのガザに対する軍事攻撃に批判的なコメントを寄せた。それに意想外の印象を受けて、「村上春樹もいいところがある」と考えるのもいいと思う。イスラエルを批判する意見が、世界に多くあることをそれなりに示す機会をつくったのだから。そこで話をやめるならいい。しかし、村上のスピーチに