舞踏会の手帖はもったことがないけれど ストーリー 小野田隆雄 出演 大川泰樹 池波正太郎の『鬼平犯科帳』の中に、次のような話があった。 なんというタイトルだったか、 その話がストーリー全体とどのようにかかわっていたか、 それは憶えていない。 若い頃に居酒屋で働いていた女がいた。 仮にお光としておこう。 酒を売るだけではなく、 ときおりは好みの客に、自分の体も売っていた。 そんな彼女が六〇歳の坂も越えて、水商売もままならず、 わびしく裏長屋で暮らすようになった。 そんなある日、彼女は表通りの人混みで、 若い頃になじみの客だった、呉服屋のせがれに、 ばったりと会った。 呉服屋のせがれも、いまは立派な大旦那になっていた。 お光は、なつかしさから思わず彼に声をかけた。 ところが、呉服屋の旦那は、なつかしいどころではなかった。 なにしろ若い頃に、遊び気分で抱いた女である。 しかもその女が、みすぼらし