リンゴの入った籠がある。ほとんどが腐っている。腐ったリンゴを排除しようとするなら、少しでも傷があるものをすべて排除しておかないと、すべてを捨てることになりかねない。傷のついたリンゴを一つでも見逃せば、あっという間にすべてがだめになる。デカルトならば、すべてのリンゴを一つずつ点検し、無傷のものしか籠には戻さない。たとえリンゴが少なくなろうが、合格するリンゴが一つもなくても、手加減しない。 デカルトの特徴はこの徹底にある。確実な土台となるものを特定するには、疑ってかかることが必要だった。だが、疑うこと自体が彼の哲学の目的ではない。この点は、徹底して疑うことだけを考えていたピュロン〔紀元前三六五頃~前二七五頃。古代ギリシャの哲学者〕など、古代の懐疑論者たちとは一線を画す。もちろん、たとえ疑うことが真理を極める「手段」や「方法」にすぎないとしても、デカルトは徹底的に疑う。 世界は本当に存在している