室町時代から続く伝統芸能・狂言の家に生まれ、狂言師という宿命とともに生きてきた。古典芸能の枠を超え、自らの存在理由を問い続けた日々を糧とし、誰も見たことがない美の創造に挑む。 午後の日差しがたっぷり注ぎ込む南向きの稽古場。温まってやわらいだ空間に野村萬斎がすっと現れ、松の描かれた鏡板の前に立つと、空気が音をたてるように引き締まっていくのが感じられる。萬斎そのものが発しているオーラなのだろう。一気に高まる緊張感の中で、少しの弛緩も許さないような立ち姿は、背筋が着物を通して感じられるようで思わず居住まいを正してしまう。 「背中に物差しが入っているようだとよく言われますね。体幹がいかにしっかりしているかが芸の道では大事。動きの中心ですし、声を出すにも幹がしっかりしていないと。僕はやせ型ですが実はインナーマッチョなんです」 狂言における立ち方は「構エ」という型で、膝はやや前に、腰は骨盤を下方に向け