彼女の七つの夢見式から識ってました。私の初仕事でしたから。祖父が私の披露目に用意したのがそれでした。けれど彼女の一族は納得しなかった。生きているうちに伝説と化した夢使いにあがないをさせたがった。私の家と彼女のそれは浅からぬ因縁がありましてね。いっときはあのお屋敷に住まわせられたこともあったそうだ。まあいってみれば郎党です。離反したのは御一新の時で、社の件で揉めたのです。お縄になった者がいるだけでなく、ひと独り死んでるそうです。まあ昔のはなしですけれどね。それでいて先の戦争の時に再び世話になったのですよ。飢えにはかないません。あちらは御大尽らしく鷹揚でした。 ああ、けっきょくは私が香音をおろしましたよ。この地上でもっとも馨しいそれを。初仕事でだいそれたことをやらかした私は順当に慢心しました。わが弟子のような謙虚さは小指の先ほどもなかったですね。艶福家の祖父を真似てそちらも派手にやりました。
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