私は執務室へ向かう前に厨房に寄ることにした。この時間なら、作男のジャンかアンリ、またはニコラが料理をしているはずだった。さまざまな香料の混ざり合った羹の匂いが鼻をかすめ、今日の料理はニコラだと見当をつける。ジャンは食べる物に拘らず、アンリは贅沢を戒める。エミールには料理番を任せていない。エミールは子爵家の長子らしく肉は鮮やかに切り分けるであろうが、煮炊きが得意とは聞いたことがない。上級職を目指そうというのだから覚えておいて損はないが、神官職の試験を終えてからでも間に合うだろう。 トマはすぐ後ろをついてきたが、戸口の前で礼儀正しく足をとめた。城勤めの騎士たちは下賎のものの居場所として厨房に立ち入るのを嫌うが、自給自足の生活を営む神殿騎士たちは気にしないものと思っていた。 振り返ると彼は、お話があるでしょうから、とこたえた。 互いに微妙な間をとって微笑みあい、私はそこで扉を閉めた。 「ルネさま
