わたしがとぼけると、ジャンは尋ねたことをあからさまに後悔したように口を曲げた。その顔をみて、自分が少し嫌になった。自己嫌悪を払拭すべく、わたしはすぐさまその名を告げた。 「マリー・ゾイゼ。この国の宰相閣下の息女にして、アラン・ゾイゼ神殿騎士団長の妻だ。もっとも、あまり公式行事にも出席しないから話したこともないけどね。彼女もわたしの顔をそれと知っているかどうかわからない。それで?」 「それでって、なんですか?」 「気になったから、わたしに尋ねたんだよね? 他に聞きたいことがあれば聞けばいい。あのご婦人の個人的なことは知らないが、この国の貴族社会、またはヴジョー伯爵家郎党が知っているようなことなら答えられる」 「聞けばって、別に、俺はその……」 後ろに行くにつれて、彼の声が小さくなった。 マリー・ゾイゼの顔に火傷の跡さえなければ、彼女の名がひとの口にのぼらない日はなかっただろう。ある種、凶暴な
著者: 河野有理 , 森本あんり 尾原宏之さんの「考える人」連載をまとめた『「反・東大」の思想史』が、新潮選書から刊行されました。刊行を記念して、東京大学の出身で、尾原さんと同じく日本思想史を専門とする河野有理・法政大学教授と、『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書、2015年)の著者、森本あんり・東京女子大学学長が、本書をめぐって対談しました。 日本における「反知性主義」? 河野 尾原宏之さんの『「反・東大」の思想史』(以下、『反・東大』と表記)を読んで、この本をめぐって対談をするなら、ぜひ『反知性主義』の著者である森本あんりさんにお願いしたいと思いました。というのも、まさにこれは日本版の『反知性主義』として読めますし、またそのように読むべきだと思ったからです。 森本 ありがとうございます。アメリカにおける反知性主義(anti-intellectualism)とは、名門
去年1年間に全国の山で遭難した人は3568人と、これまでで最も多くなりました。今後、本格的な夏山シーズンを迎えることから、警察庁は、登山に行く場合には安全な計画を立て、十分な装備をととのえるよう呼びかけています。 警察庁によりますと、去年1年間に全国の山で遭難した人は3568人で、おととしと比べて62人増え、統計が残る1961年以降、最も多くなりました。死者と行方不明者は合わせて335人で、おととしを8人上回りました。 遭難した人の年代別の内訳は、70代が790人と最も多く、次いで60代が706人で、60代以上が全体の49%を占めています。 都道府県別では長野県が332人、北海道が245人、東京都が233人などとなっていて、特に富士山や高尾山など、観光地として有名な山での遭難が相次ぎました。 遭難した外国人は145人とこれまでで最も多くなり、外国人の死者・行方不明者も11人にのぼりました。
手足のえ死などを引き起こし、死に至ることもある「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の都内の感染者数が、統計開始以来、最も多くなっているとして、都は注意を呼びかけています。 都は13日、専門家が参加する感染症の対策会議を開きました。 このなかで、都の担当者は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の患者数が今月2日時点で、統計を取り始めて以来、過去最多だった去年1年間の141人をすでに上回り、147人にのぼっていると報告しました。 「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は、主に「A群溶血性レンサ球菌」と呼ばれる細菌に感染し、手足のえ死や多臓器不全などが起こる感染症で30代以上に多いとされ、症状が急激に悪化し死に至ることもあります。 都は、手足の痛みや腫れ、発熱などが感染の兆候だとして、兆候に気付いたら、すぐに医療機関を受診してほしいとしています。 また、飛まつや接触のほか、手足などの傷口から感染することがある
DATE2024.06.14 #Press Releases 最強動物「クマムシ」のゲノム改変を可能に ――耐性機構の全容解明に向けて大きな前進―― 國枝 武和(生物科学専攻 准教授) 近藤 小雪(千葉工業大学 助教 研究当時:生物科学専攻 特任研究員) 田中 彬寛(遺伝学研究所 日本学術振興会特別研究員 研究当時:生物科学専攻 博士課程) 発表のポイント さまざまな極限環境に耐えることで知られるクマムシ類で初めてゲノム編集個体の作製に成功しました。 親個体の体内にゲノム編集ツールを注入することで、ゲノム中の目的遺伝子を完全に改変した子個体を得る手法を確立しました。 遺伝子改変個体の作製は、長年に渡ってクマムシ研究における最大の技術的課題であり、本研究はその課題を解決しました。これにより、耐性機構の解明が進むことで、ワクチンなどの常温乾燥保存技術の開発につながることが期待されます。 クマム
労災で妻を亡くした男性が、法律の規定により遺族補償年金を受けられないのは不当だとして国を訴えた裁判が始まりました。規定では、残された家族が妻の場合は年齢制限がありませんが、夫の場合は54歳以下だと支給を受けられないため、男性は「不当な差別だ」と訴えていて、これに対し国は争う姿勢を示しました。 東京都に住む54歳の男性は5年前の2019年に団体職員だった妻を亡くし、長時間労働などが原因だったとして労災に認定されましたが、男性が国に遺族補償年金を申請したところ、認められませんでした。 労災保険法では、残された家族が妻の場合は年齢に関係なく遺族補償年金を受けることができますが、夫の場合、妻が死亡した時に54歳以下だと受けることができないとされていて、男性はこうした規定は不当な差別で憲法違反だとして国に処分の取り消しを求めています。 13日、東京地方裁判所で裁判が始まり、原告の男性が意見陳述を行い
地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力… 地球より彼方に浮かぶ双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつて住んでいた原住種族は植民した人類によって絶滅したと言い伝えられている。しかし異端の説では、何にでも姿を変える能力をもつ彼らは、逆に人類を皆殺しにして人間の形をして人間として生き続けているという…。「名士の館に生まれた少年の回想」「人類学者が採集した惑星の民話」「尋問を受け続ける囚人の記録」という三つの中篇が複雑に交錯し、やがて形作られる一つの大きな物語と立ちのぼる魔法的瞬間-"もっとも重要なSF作家"ジーン・ウルフの最高傑作。 物語の舞台となっているのは、人類が植民して二百年足らずの双子惑星サント・クロアとサント・アンヌ。かつてサント・アンヌには
長引く物価高は、企業による必要以上の値上げが要因との見方が出ている。企業がコスト増加分を上回る値上げで収益を拡大させた一方、賃金に十分還元していないとして、欧米で「強欲インフレ」と呼ばれた現象だ。物価上昇の内容を分析した専門家によると、日本も同様の状況に陥りつつある。(大島宏一郎) 5月末の金曜日、スーツ姿の人が行き交うJR新橋駅前のSL広場。「食品は値上がりしたが、給料は上がっていない。景気は悪いと感じる」(東京都千代田区の30代会社員女性)、「スーパーで買うお菓子の容量や個数が減った」(港区の60代会社員男性)。働く人たちは物価高の厳しさに口をそろえた。連合総研の4月調査で、賃金が物価より上がったと答えた働き手はわずか6%台だ。
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