彼女が離婚を告げると夫はいやだという。離婚する理由がないという。彼女は不審に思いながら説明する。だっておなかの子はいなくなっちゃって、私はもう産めなくなったのよ、私の不注意で。事故は不注意じゃないし、そういう問題じゃない、と夫はいう。子どもはほしかった、でも子がないからといって夫婦をやめるなんておかしい。そのように訴える。 子どもはほしいって最初から言ってたし、じゃあもっと若い人のほうが確率が上がると忠告したのに私と結婚して、私はこの人を愛しているけれども、理解はできないな。彼女はそう思う。離れて三ヶ月もすれば私がいないことに慣れるし、一年もすれば感情も変わるだろう。 そう思って彼女は夫と別居した。仕事では人がいやがることをよく引き受けるようになった。価値がないと思われている作業をしたかった。彼女の消費は極端に減った。粗食になって、なにも欲しいと思わなかった。痩せも太りもしなかった。眼窩が