タグ

ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (8)

  • さみしいってちゃんと言え - 傘をひらいて、空を

    べっとりと貼りつくような声に受話器を遠ざける。思わず顔をしかめて、胸が悪くなるような嫌悪感を自覚した。どうしてこんなに強い嫌悪感があるのか、電話対応をしながら自分の中を探った。不愉快で強い感情はしっかりとモニタリングしたほうがいいと私は考えている。打ち消すのではなくて、見ないふりをするのではなくて。 部下が急病で入院したということで、同居している母親から電話がかかってきた。社員の病欠時、家族から会社に電話してもらうのはいっこうにかまわない。まったく問題ない。でも詳細な病状を教えてもらう必要はない。倒れる前のようすから現在の症状の詳細まで身体の具体的な描写を織り交ぜて話す必要はない。それは部下人のプライバシーであって、親御さんが勝手に私に話していいことじゃない。そう思う。 私は通常の電話ではしない強引なタイミングで話に割り込み、詳細を話す必要はないこと、社内で必要な連絡はしておくことを伝え

    さみしいってちゃんと言え - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2018/02/14
    「かまってほしかったら人間関係をケアしろ。なかったら関係を作る努力をしろ」「私は、気持ち悪い人間に遭遇すると、すみやかに遠ざかって、その具体的な細部を、すっかり忘れてしまうのだ」
  • 何もかもを捨てるための具体的な方法 - 傘をひらいて、空を

    なにもかもがいやになった。 私はもとより性格が暗く、わりとしょっちゅう「ああ何もかもがいやだ」と思う。時間が経つと「やっぱり何もかもがいやなのではない」と思い返す。定期的にそれを繰りかえす。もう飽きるほど繰りかえしているので、々とした気分がやってくると「また君か」と思う。人生は刺激的な冒険であると同時に、平均寿命の半分も過ぎないうちに飽きてしまうルーティンワークでもある。鏡を見れば同じ顔しか出てこない。中身も知れている。そりゃあ、ときどきは「何もかもがいやだ」という気分にもなる。ずっといやになっていないだけ立派なものである。 そんなときには小屋のことを考える。小屋は伊豆半島の、人がたくさん来ない側にあって、海に流れ込む直前のきれいな川のほとりに建っている。山あいだけれども、人里離れているというほどではない。隣の敷地は畑で、その向こうには人が住んでいる。私はその小屋を使うことができる。小屋

    何もかもを捨てるための具体的な方法 - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2017/07/19
    一泊二日用のかばんで行った数日のはずの出張がどんどん長期になっていったとき、なんだかすごく身軽になった気がしたのを思い出した
  • 一晩百万で買えるもの - 傘をひらいて、空を

    その家に行って彼女の息子にかまうのは三十分までと決められている。私は小さい子を嫌いではないし、彼女の息子が赤ん坊のころから定期的に遊びに来ているから、たがいに慣れてもいる。それだから三十分が一時間になってもかまいやしないのだけれども、その子の母である私の友人は時計を見て子に宣言するのである。「さやかさんはお母さんの友だちなの。だからお母さんとお話をするの。ひろくんはそろそろ、さやかさんをお母さんに返さなくちゃいけません」。 子にとって事をしながらのおしゃべりは「遊び」ではないらしく、「ではママとさやかさんは何をして遊んでいるのか」という問答にいささかの時間を費やした。しかたないよと私は言った。ふだんより凝った事を作ったり、ちょっといいお酒を持ち寄ったりしながら延々と話している、それが実はいちばんの「遊び」だというのは、七歳にはちょっと早いよ。私たちは、山とか海とか行っても結局のところし

    一晩百万で買えるもの - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2017/06/05
    「パパは僕が働いているお店に来てたくさんお金を遣う。だから僕はパパの友だちのような顔をするんだ」「父をよろしくお願いしますと言ったわ。できすぎているでしょう。でもほんとうなの」
  • その苦しみは誰のもの - 傘をひらいて、空を

    彼女が離婚を告げると夫はいやだという。離婚する理由がないという。彼女は不審に思いながら説明する。だっておなかの子はいなくなっちゃって、私はもう産めなくなったのよ、私の不注意で。事故は不注意じゃないし、そういう問題じゃない、と夫はいう。子どもはほしかった、でも子がないからといって夫婦をやめるなんておかしい。そのように訴える。 子どもはほしいって最初から言ってたし、じゃあもっと若い人のほうが確率が上がると忠告したのに私と結婚して、私はこの人を愛しているけれども、理解はできないな。彼女はそう思う。離れて三ヶ月もすれば私がいないことに慣れるし、一年もすれば感情も変わるだろう。 そう思って彼女は夫と別居した。仕事では人がいやがることをよく引き受けるようになった。価値がないと思われている作業をしたかった。彼女の消費は極端に減った。粗になって、なにも欲しいと思わなかった。痩せも太りもしなかった。眼窩が

    その苦しみは誰のもの - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2015/10/15
    若干、月村了衛っぽい
  • サイレント・モンスター - 傘をひらいて、空を

    まとわりついて話しかけた。立ちはだかって行く手をふさいだ。かっとなって怒鳴りつけた。泣きわめいた。腕をつかんで揺さぶった。相手の顔がすこしゆがんだ。アテンション、と彼女は思った。いまこの人は、私を見た。私に注意を向けた。それをひどく嬉しく感じるのはおかしいことだと、そう思わないこともなかった。けれどもそれはバックグラウンドに流れるだけの感覚だったし、より大切なことのために早急に処理された。彼女は夫の目を見て言った。話をして。夫はため息をつき、彼女の腕を振り払って寝室に入った。しがみついて噛みついて殴りつける映像が彼女の脳裏に行き交った。 彼女は息を吸い、息を吐いた。からだが震えていた。てのひらを見た。彼女は自分の衝動や欲望を見逃す人間ではなかった。それは確実に彼女のなかにあり、今しがた急激に育って、天井ちかくから彼女を見下ろしていた。夫を殴りたかった。そうではない。殴りたい。過去形ではない

    サイレント・モンスター - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2014/11/19
    「私が、みんなのこと、学生時代とおんなじなんだと思って、うかうかと寝たり起きたりしているうちに、世界が変わっちゃったみたいな気持ちする」わかる
  • 箸三膳分の愛 - 傘をひらいて、空を

    夜中まで作業が続きそうなのでオフィスグリコにコインを落としてカップ麺を手に入れる。その場でばりばりパッケージを破いて、据え置きのポットからお湯を注ぐ。ジャンクフードのにおいをくんくんとかぐ。にんまりと笑う。それから気づく。割り箸がない。コンビニエンスストアで買えば箸をくれるけれど、オフィス内で買うとない、みたいだ。知らなかった。近くの席の社員と目が合う。相手の視線が自分の顔から夜にスライドする。お、からだに悪そうなもんってますねえ。まだべてませんよう、箸がなくって、だから、どうしようかなーって。その会話の途中から机の抽斗をあける音がいくつも派手に響き渡って少し驚く。顔見知りの三人がそれぞれの席から割り箸を差し出している。みんなで顔を見合わせて笑う。 というわけで私は無事にカップ麺をべることができて、割り箸のストックまでできて、みんなに愛されてるなーって思ったの。だっていやなやつがカ

    箸三膳分の愛 - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2014/07/25
    ピングドラムの「たった一度でもいい、誰かの愛してるって言葉が必要だった」をおもいだす
  • デイジー、デイジー - 傘をひらいて、空を

    目をあけてああ来たなと彼女は思う。そろそろ来そうな気配はあった。ベッドに投げだした手足が遠くにあるような気がする。そこにあるべき筋繊維は半分くらいどこかにいってしまったみたいに感じられる。若かったころ、それはもっと頻繁に来ていた。そうでないときより、それがあるときのほうが長かった。それは今よりもずっと重たく強大で、よく動いた。彼女はほとんどそれに飲みこまれていたけれど、それが自分の人格の基ではないことをなんとなく知っていた。それはいつかどこかで彼女に押しつけられた苦痛の結果として彼女に生じているもので、つきあいも長いしよく知っているけれど、彼女自身ではない。少なくとも彼女のすべてではない。 起き上がるのはけっこうたいへんだ。だってどうして起きなくちゃいけないかよくわからないからだ。放っておけば液状になってベッドにしみこんでそれから床にしみこんでいくのに、と彼女は思う。そのようになるべきだ

    デイジー、デイジー - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2014/06/29
    チャーチルが自分のうつ病のことを「わたしの中の黒い犬」と呼んでいたことを思い出す
  • だいじょうぶオールド・ボーイ - 傘をひらいて、空を

    ごはん行きましょう。なるべく明るい声で私は言う。性根が陰なのを隠して明朗にふるまおうとするとばかっぽくなるなあと思う。職場での私は常時そんなふうだ。他人にはなるべく当たり障りのない印象を持ってもらいたいと思う。みんなそう考えてほがらかな顔をしてほがらかな声を出しているのだと思う。前向きなふるまいは他人に対するサービスだと思う。少なくとも四割くらいはおうちに帰ったら思う存分さみしいことや苦しいことを考えていると思う。 昼に誘った先輩もその四割に該当しそうな人格ではあるけれども、今はもっと露骨だった。職場にあって取り繕うことさえしない。ふだんはする。でもこの一ヶ月くらい、ぜんぜんしていない。あいまいな笑顔のようなものを浮かべてあまり人と目を合わせない。あいさつはしても、そのあとに二言三言雑談することがなくなった。パーティション越しに小さいため息が聞こえる。背がひどくなってなんだかちょっと

    だいじょうぶオールド・ボーイ - 傘をひらいて、空を
    fuldagap
    fuldagap 2014/05/13
    「中年になってそれをしない免罪符をもらったのだと思った。でもそうじゃなかった。あっけなくどうしようもなく、好きになってしまった」なんていうか、すげえ分かる、といえる程度に中年になった
  • 1