1845年元日の早朝、ロンドンに向かう列車の中に息を押し殺す男がいた。その男の名は、ジョン・タウェル。列車に飛び乗る直前、彼は愛人のセアラ・ハートを毒殺していた。今ごろ警察が殺人に気がついたとしても、大都会ロンドンの雑踏に身を潜めれば逃げ切れる、この殺人犯はそう考えていた。しかし、彼はあっけないほど簡単に捕まってしまう。ロンドンの警官たちが、駅でタウェルの到着を待ち構えていたからだ。 19世紀中ごろ、列車は人にとっても情報にとっても最速の移動手段であった。ではなぜ、ロンドンの警官はタウェルが殺人犯であることを彼の到着より早く知っていたのか。それは、この事件の前年に設置された電信線によって、殺害現場からロンドン警察へ犯人の特徴を伝える連絡が入っていたためだ。後から追いかけてきた情報が列車のタウェルを追い越し、彼は世界で初めて電信によって処刑された男となったのである。 情報の伝達速度がヒト(も
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