アダム=スミスの時代から保護貿易論者と自由貿易論者の戦いは続けられており、南北問題や自由貿易協定に関する議論もその延長に近いものだ。しかし、世の中はそう単純なものなのであろうか。 南北問題に話を絞ろう。国際貿易によって途上国生産物の価格が適正では無くなっていると言う批判と、自由化によって適正な価格と需給がもたらされていると言う主張がある。 需給を均衡させる価格が重要なのは間違いない。ゆえに経済学者は基本的に、競争均衡価格を信奉する。しかし、自由化によって“適正価格”が得られるとは限らないのもまた真実だ。タンザニアのコーヒー産業の自由化には、その典型的な側面がある。 1. 共同組合(MBOCU)依存の自由化前 黒崎(2010)、山本(2009)によると、タンザニアは1961年の独立後、1986年に国際機関の要求する構造調整政策を受け入れ、1993年にコーヒー市場を自由化した。 自由化前のタン