「走れメロス」 しかし見よ、目前の加茂川を。 先日の雨で水嵩が増え、濁流滔々とデルタに注ぎ、どうどうと響きを上げる激流が、あたりを浸している。芽野は天を仰ぎ、めったに気にかけたことのない神に哀願した。「ああ神様!太陽が沈んでしまわぬうちに、大学へ連れ戻されたら、私はつまらん『友情』とやらを証明するために、ブリーフ一枚で踊るのです!」と彼は叫んだ。 だが周囲を取り囲むのは欲に眼のくらんだ敵ばかりである。渡り切るよりほかにない。ああ、神々も笑覧あれ!濁流にも負けぬ意志の力で、必ずやこの難局から逃げ出してみせる! そうして芽野は、十一月の身を切るほど冷たい濁流へ飛びこんだ。