それにしても、今、なぜ中国はそれほど地図にこだわるのだろうか。 中国が領土拡張を目論んでいるからか。それとも香港で復刻版が発売されたという「国恥地図」と何か関係があるのだろうかと考えてみるが、見当もつかない。 その頃、私は長編ノンフィクション作品を書いており、それ以外のことは何も手につかなかった。ただ偶然にも、読んでいた資料の中から、かつて中国で「国恥」教育が実施されたという記述を見つけていた。『蒋中正先生年譜長編』という台湾で出版された本で、蒋介石にまつわる記録文書をまとめたものである。どうやら「国恥地図」もそれと関係しているようだった。 2019年3月、5年越しで書いた『戦争前夜――魯迅、蒋介石の愛した日本』が出版に漕ぎつけたのを機に、私は改めて「国恥地図」について調べてみることにした。 ネットを探して、驚いた。中国はおろか、日本やアメリカのサイトでも、ネット販売や古書店のリストから「