このように大阪万博開催以降、海外のミュージシャンたちの来日公演が急増した理由としては、大阪万博を契機として、海外のレコード会社やミュージシャンたちが日本という市場に目を向け始めたため、とも考えられる。もちろんそうした背景もあるであろうが、実はそれ以上に「音響」というテクノロジーが来日公演急増の大きな要因であったと筆者は推測している。 PA(コンサート音響)業界で老舗企業であり国内最大手のヒビノ株式会社(1956年創業)のWebサイトには、当時の状況を窺い知るためのエピソードが掲載されている。それによると、1970年、同社の創業者で自身も技術者である現会長・日比野宏明氏は大阪万博に出かけた際、万国博ホールで行われていた「セルジオ・メンデス&ブラジル ’66」のライブコンサートを体験した。このコンサートで使用されていた音響機材は、アメリカの音響機器メーカーであるシュア社(Shure、1925年