きりがないな、そうだろ? きりがないよ、本当にきりがない、とファン・デ・ディオスは答えながらリノ・リベラのいるソファに座り込み、煙草に火をつけた。 ロベルト・ボラーニョの『2666』を読んでいる。この長大な傑作小説にはいくつかのモチーフがあるのだが、そのひとつがシウダード・フアレス連続殺人事件である。メキシコ最大の、たぶん世界最大かもしれないこの殺人事件のことは、実は日本ではほとんど知られていないかもしれない。ボラーニョはもちろん、世界の裂け目の向こう側、条理の通用しない世界のありかを示すためにこの殺人事件をモチーフにしたのである。 事件について、昔書いた原稿があるので、ついでに再掲しておく。『2666』を読んだ人も読んでない人も、どうぞ。 シウダード・フアレス連続殺人事件には明確なはじまりもなく終わりもない。それはスプロール化したメキシコのスラムのようにだらだらとどこまでも広がっている。