将棋の棋士・羽生善治さんの名前を聞いたことのない人はまずいないと思う。しかし,羽生さんがコンピュータ分野の一つである人工知能に関係があるということは,どうだろうか。もちろん研究者としてではなく,思考プロセスの分析などで被験者となって協力しているのである。 そのことを初めて知ったのは約3年前,『日経バイト』の特集記事のために人工知能/認知科学研究者の松原仁さんと伊藤毅志さんに取材したときである。そんな有名なトッププロが協力しているのかと驚いたことを記憶している(記事は同誌2004年2月号に掲載された)。それをいま取り上げるのは,最近目にした二つのことがきっかけである。 一つは,やや旧聞に属するが,今年の5月に行われた第16回世界コンピュータ将棋選手権で「Bonanza」という初出場の将棋ソフトが優勝したことだ。現在の将棋ソフトはすでにアマチュア高段者の域に達しており,プロのタイトル戦挑戦者と