どこを向いて何を書くか──2人の農業記者は自由な狩場を求めた。ノンフィクション作家・清武英利氏の連載「記者は天国に行けない 第15回」(「文藝春秋」2023年4月号)を一部転載します。 【写真】この記事の写真を見る(2枚) ◆◆◆ 東京・秋葉原に本社を置く「日本農業新聞」は、日本唯一の日刊農業専門紙で、JA(農協)グループの機関紙として30万部近い部数を誇っている。 通称「日農(にちのう)」。専門紙といっても、従業員225人を擁し、内閣記者会や農林水産省の農政クラブなど33の記者クラブに記者を送り込む有力紙である。特に農水省では、記者の数でも情報量でも他紙を圧倒する存在だ。 あるとき、農政クラブで「次の首脳人事では無駄な競争を避け、不戦協定を結ぼうではないか」と一般紙記者から談合を求められたことがある。だが、日農の記者は大臣に助言するところまで食い込んでいたので、迎合することなく、いつもの