<別の生き物になりたい>と願い、ボディービルの大会に向けてストイックに身体を作っていく二十九歳の女性が、しかし、この競技においてもなお、女性は女性性を求められるという現実に直面。エンタメでも勝負できるユーモラスな語り口が魅力の作品です。 希死念慮を抱える母親を視点にしたメインストーリーの合間に、母を小バカにしている問題意識の高い十四歳の娘が配信するYouTubeでの発言を挿入。平行線をたどる二人の世界を太宰治の『女生徒』でつなげるという意想外の発想に虚を突かれますし、娘による『女生徒』の解釈が斬新です。世代間断絶や母娘の難しい関係を取り上げ、かつての少女と未来の少女をかすかに連帯させる読後感の良さも◎。