高校時代のある夏の日、校門を出た向かいにある自動販売機でジュースを買おうと、百円を持って出かけたのです。ところが、一瞬気が変わり自販機の隣にある古本屋に足が向いて、どういうわけか百円だった『螢川』を手に取りました。喉が渇いていたはずなのに。その晩、一気に読んで、泣きました。 初めて小説で、人情の機微、人間の奥深さに触れる経験をしたのだと思います。当時は受験を控えて、どこか鬱屈した毎日を送っていましたから、螢の大群が輝くラストにはカタルシスを得もしました。以来、宮本さんの大ファンです。 そんな一ファンだった僕に、数年前、宮本さんの書評の仕事が舞い込んできました。喜んで一生懸命に書き、20年以上前の偶然に改めて感じ入ると同時に、これは“一念”がもたらした出会いだとも思ったんですね。 僕はもともと小説家を目指していて、俳人になったわけですが、いずれにせよ言葉に携わる仕事がしたいという一念でやって