●私の恋人はセメントになりました。 松戸与三は恵那山の麓で発電所の建築現場で働いていた。 一日中顔をセメント粉にまみれながら樽からコンクリートミキサーに移す仕 事に就いていた。 「なんだろう?」 仕事にヘトヘトになつた頃、樽の中から小さな箱が出てきた。 彼は腹掛けの丼(ポケット)にほうりこんだ。 「軽いところを見ると、金も入ってねえようだ」 ミキサーがからになり、終業時間になった。 「なんでセメント樽から木の箱が、、!?」 思わせぶりに頑丈に釘付けしてあった。 石にぶつけ何度も踏みつけた小箱のなかからボロに 包んだ紙切れが出て来た。 それにはこう書いてあった。 私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。 私の恋人は破砕器(クラッシャー)へ石を入れる事を仕事にしていました。 そして十月の七日の朝、大きな石といっしょに、クラッシャーの中にはまりま した。 そして石と恋人のからだは砕け合っ