彼に会ったのは、中国・北京の瀟洒なアパートの一室だった。ITベンチャーを思わせる雰囲気のオフィスでは、若い男女十数人がパソコンに向かっている。ここは、中国環境NGO(非営利組織)の中で最も世界に影響力を持っているであろう、公衆環境研究センター(IPE)の事務所だ。 IPEを率いる馬軍(マー・ジュン)氏は、物静かで穏やかな雰囲気をまとった人物だ。ところが、ひとたび企業活動による環境汚染に話が及ぶと、目に鋭い光が宿った。中国は環境NGOにとって、生きにくい国だ。それでも、政府や企業に迎合することなく戦っているという切迫したオーラが馬氏から漂った。 馬氏がIPEを設立したのは2006年のこと。NGO活動に制限のある中国で地道な活動を続けてきた馬氏は、本当に人生をかけて活動をしてきたのだろう。IPE設立後、真っ先に手掛けたのが「中国水汚染地図」の作成だった。中国政府が公表した水質汚染の情報をかき集