最近の村上龍は「カンブリア宮殿」で、強引に経営者の成功の秘訣をまとめたりしていて、成功の十分条件でないもののをあたかも統計的に有意な十分条件であるかのように喧伝する自己啓発書のような胡散臭さを帯びていて、正直ちゃんとした小説を書いているのか不安だったが、それは杞憂に終わった。本書は、高齢化による労働力不足で移民を受け入れたものの、絶対的な富の不足により内戦状態になり、社会を階層化して分断させることで無理やり治安を維持している100年後の日本を描いた小説であるが、冒頭の30ページ読んだだけで傑作だと予感させた。「五分後の世界」に近い。 いくつかの面白い設定がある。例えば、敬語の廃止だ。2050年ぐらいに起きた文化経済効率化運動という、共産中国の文化大革命ばりの運動があって、その一環で「意思の伝達を非効率にさせ、政治や経営の意思決定において有害」だとして、敬語の使用が禁止される。たしかに、仕事