夏目漱石『私の個人主義』を読んだ。この本には漱石の講演がいくつか所収されているが、表題の「私の個人主義」を読んで唸る。記録を見れば大正3(1914)年11月の講演だから、実に90年以上前に話された内容だというのに、いまなおこれだけ示唆に富んでいるというのは凄まじい。 私の個人主義 (講談社学術文庫) 作者: 夏目漱石出版社/メーカー: 講談社発売日: 1978/08/08メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 117回この商品を含むブログ (100件) を見る 漱石は順風満帆に「英文学者」という自分の道を見つけたわけではなかった。話はそこから始まる。 帝国大学卒業を間近に控えた漱石は、迂闊にも就職のことを考えていなかったことに気がつく。知人が学習院の英語教師に推薦してくれ、すっかりその職に就くつもりでいたら、落ちてしまう。東京高等師範学校の英語教師になるも、「どうも窮屈で恐れ入り」、松山