ポール・クルーグマンはニューヨーク郊外の SF 少年として生まれ育った。ハリ・セルダンにあこがれて心理歴史学の道を志したものの、諸般の事情で挫折、失意のうちに経済学の道に入ったが、その後じわじわと頭角を現し、収穫逓増に基づく新貿易理論の旗手、為替理論、同じく収穫逓増に基づいた経済地理での活躍、調整インフレ論、そして経済解説者/コラムニストとしての辣腕振りなど、驚異的な活躍を見せるようになる。 クルーグマンの経済学における第一の功績は、貿易理論の刷新だった。1960 年代までの貿易理論は、デヴィッド・リカード の比較優位論におおむね基づいていた。なぜ貿易が起こるのか? それは各国には地理や資源面で差があるからだ。ある国はリンゴをつくるのに適してる。ある国は石油がとれ、ある国は飛行機づくりが得意。いちばん得意なものに特化してそれを交換するのが貿易だ、というわけだ。しかしながら実際の貿易は、先進