「災害を忘れてはならない」との思いで造られた建築物が、人々の記憶から遠のいている。京都府京丹後市の丹後震災記念館。91年前の震災の惨禍を次世代に伝える象徴だったが、老朽化で耐震性が低いと判断され、2012年以降は立ち入れなくなった。市の財政難で修復工事どころか、雨漏り対策もできない状況だ。 記念館は同市峰山町の高台にあり、震災後に大火が起きた町中心部を一望できる。「この冬でだいぶ壁が崩れた」と語るのは同市教委で文化財保護を担当する新谷(しんたに)勝行さん(46)。震災の調査を続け、資料を整理してきた。割れたガラスからすきま風が入り、破れた白いカーテンが揺れる。 特別に講堂に入れてもらうと、燃える倒壊家屋から人々が逃げる様子を描いた巨大な絵が目に飛び込んできた。京都市出身の画家、伊藤快彦による震災画だ。背後の白壁には黒や緑のカビが広がる。新谷さんは「使わなくなった建物は傷みがはやい」と残念が