「雨か、ついてないな」 俺は黒い軍帽を少し傾け、顔にかかる冷たい雨を遮る。 そういえば俺が前世を去った日も、こんな雨が降っていた気がするな。 「急ごう。今日中にグリーエン卿の処刑を済ませないと大隊長に叱られる」 「はい、中尉殿」 生真面目にうなずいたのは黒髪ボブで黒い軍服の若い女性。リーシャ・クリミネ儀礼少尉だ。 歩兵科や砲兵科の少尉ならそれなりに立派なものだが、儀礼科はちょっと違う。 我が帝国の場合、「儀礼」というのは要するに勅命による処刑だからだ。 この国の正式名称は「神に選ばれしザイン=ワーデンであると同時にワーデン=ザインでもある正統帝国」という。建国時になんかややこしい事情があったのが容易に想像できる名前だ。 だがみんな「帝国」としか呼ばない。他に帝国がないからだ。 この正統帝国は皇帝の権力が大変強く、貴族や聖職者でも割とあっさり処刑されてしまう。 しかし身分の高い人の処刑にはそ