1 深い森の中にぽっかりと開けた空間に、バルドたちはいた。 目の前では滝が絶え間なく水を碧(みどり)の滝壺に注いでいる。 滝壺のほとりに大きな岩棚が張り出しており、その上にヴェン・ウリルが寝そべっている。 ついさきほどまで泳いでいたのだ。 汗やほこりやこびり付いた血をすっかり洗い落とし、今は気持ちよさげに吹く風に裸身をさらしている。 褐色の全身のそこここに傷痕があるが、それはこの男の美しさを少しも損なっていない。 すらりと伸びた足も指も長い。 手もまたしかりである。 驚くほどの瞬発力を秘めた全身の筋肉は、ビロードのようになめらかな表皮によって、凶暴さを見事に隠しきっている。 しなやかで、つややかで、まるで夜のけもののようだ。 燐光に包まれているようにみえるのは、うぶ毛が木々の葉を通り抜けてきた陽光を反射しているからである。 左肘を突いて少しだけ上半身を起こし、右腕は折り曲げて胸の上に遊ばせ
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