長年、朝の通勤ラッシュで活躍してきた「多扉(たとびら)車」をご存じだろうか。通勤電車の乗降扉は1車両につき片側3、4カ所が一般的だが、これを5、6カ所にしたのが多扉車だ。扉を増やすことで各駅での乗降をスムーズにし、電車の遅延を防ぐ目的で投入された。 首都圏では1990年に山手線に登場して広く知られるようになり、2000年代にかけて鉄道各社に普及した。しかし、10年ごろから各社で“引退”が進み、20年、JRや東武線などでの運用終了を最後に姿を消した。 今回はこの「多扉車」について見ていきたい。 元祖にして唯一「京阪電鉄5000系」 多扉車の元祖は、70年に関西に登場した京阪電鉄5000系だ。こちらも21年1月29日、朝の混雑時間帯における「片側5扉」での運用を取りやめ、使命を終える。多扉車の歴史の中で「全車両が多扉」という唯一の存在だった。 車内の特異な構造も注目された。「片側5扉」での…