【原文】(クリックで展開) 【原文】 「江戸を出てから今日《けふ》で廿一日《にじふいちにち》、水茶屋の女の手から茶を飲《の》むも気味《きミ》悪く、浮世《うきよ》ハ律儀《りちぎ》に構へたが損《そん》なり」 と火吹竹《ひふきだけ》の様《やう》になったを圧《へ》し付けて、そろりと襖《ふすま》の間《あい》から覗《のぞ》けば、屏風《べうぶ》を立て見えず。 「さらば合点《がつてん》」と小便《セうべん》に出る様《やう》にして、閨《ねヤ》を出、縁《ゑん》へ回り、書院床《しよえんどこ》の様《やう》なる鴨居板《かもゐいた》の透《す》かしより、思ふまゝに差し覗き見れば、男一つ夜着《よぎ》に枕《まくら》を並べ、胴《どう》は一所に命々鳥《めい/\てう》のごとく、何を言うやら、笑うやら、鳴くやら。 しらりと夜《よ》明けになれば、「心留《こゝろと》まるは関《セき》の地蔵《じぞう》」と歌ふて、馬の鈴音《すゞをと》に旅籠《