「ぼく」は父親とともに、物乞いをするために街角に立っている。ああ、お腹が空き過ぎてもう倒れそう…ってときに、ふと「かき」という文字が目に入る。「かき」っていったいどんな食べものなの!?「ぼく」は食欲に刺激された想像力を駆使して「かき」をおもい浮かべるのだったが…! ってあらすじの、チェーホフ流のユーモアが炸裂した快作。たった9ページの短編だけど、9ページが9ページともおもしろい。 「かき」を想像する「ぼく」。 「とうちゃん、かきってなあに?」と、ぼくはくりかえす。 「そういう生きものだよ。……海にいるな……」 ぼくは、とたんに、この見たことのない海の生きものを、心の中でえがいてみる。それは、きっと、さかなとえびのあいのこにちがいない。そして、海の生きものというからには、それを使って、かおりの高いこしょうや月桂樹の葉を入れた、とてもおいしい熱いスープだの、軟骨を入れたややすっぱい肉のスープだ