昨年10月に出版した『世界インフレの謎』(講談社現代新書)では、世界でインフレが起きているのはなぜか、そして、日本の物価はどういう状況なのかを解き明かそうとした。本書は昨年6月から8月頃の私の理解に基づいている。米欧を中心とする世界の物価に関して、私の考えは今でもほとんど同じだ。ただし、日本の物価については、1年前に想定していなかった新たな学びがあった。(東京大学大学院経済学研究科教授 渡辺 努) 【この記事の画像を見る】 ● 日本はずっと「異端」だった 「世界には4種類の国々がある。先進国と発展途上国と日本とアルゼンチンだ」 今も語り継がれる有名なジョークを残したのは、ノーベル経済学賞を受賞した偉大な経済学者、サイモン・クズネッツだ。日本とアルゼンチンは異常値、という意味である。 ここで日本が挙げられる理由は、1960年代の異様な高成長を指してのことだろう。今の日本は高成長ではないので、