面白い。しかし危うげな本。 心理学実験という主題がそもそも剣呑(けんのん)だ。 本書の二章でも取り上げられている、有名なミルグラムによる電気ショック実験など、いま同じことをやれば訴訟沙汰(ざた)に発展しかねない。 ミルグラムは「罰と学習効果の関係を調べる実験」という触れ込みで被験者を募り、彼らに成績の上がらぬ学習者に対し罰として電気ショックを与えさせた。だが実際は、学習者は全部「サクラ」。電撃による苦痛も演技だった。学習者が苦悶(くもん)の表情を浮かべるのを目の当たりにしながら、どこまで実験の指導者の命令に従って電気ショックを与え続けられるものか。人間性の臨界を試すのが真の目的だったのだ。 確かに興味深い実験だ。服従の心理的機制について一定の知見を引き出したともいわれる。 だが危うい。当然、この実験は各方面にセンセーショナルな反応を引き起こした。倫理的な非難が押し寄せ、ミルグラムの名声は廃