伝説の作家・山尾悠子の新刊『飛ぶ孔雀』(文芸春秋)が5月に刊行され、話題を呼んでいる。山尾悠子は1975年のデビュー以来、寡作ながら純度の高い幻想小説を発表し、熱狂的な読者をもつ作家だ。8年ぶりとなる長編『飛ぶ孔雀』は、〝火が燃えにくくなる〟という現象が蔓延した世界を舞台に、夢とも現ともつかないエピソードが綴られる連作集。 作品を特徴づけているのは、エンターテインメントの常識には収まらない非直線的なストーリー展開と、硬質で密度の高い文体だ。その世界はどこまでも奥深く、全貌を見通すことなどできないのだが、火を盗みに舞い降りる孔雀や、地下に広がる公営浴場など、絢爛なイメージと戯れるだけでもじゅうぶん楽しい。「ホラー」や「ファンタジー」より、ちょっと古風に「幻想文学」と呼んでみるのがしっくりくる小説だ。 さて。思い返してみるにここ数か月、幻想文学関連の注目本が相次いで刊行されていたのだった。たと