南欧の田舎の港町をイメージしてデザインされ、古めかしくも不便な町で過ごす夏のヴァカンスというコンセプトで造り上げられた仮想リゾート<数値海岸>。目覚めた十二歳の少年ジュール・タピーは、今日は鳴き砂の浜へ、ジュリーと硝視体<グラス・アイ>を拾いに行こうと決めた。視体<アイ>は、ほかのどんな事物にもできないやり方で、区界の物体や現象に働きかけることができるのだ。ある夏の一日をくり返すこの<夏の区界>で、彼らAIたちは、千と五十年も前から、この同じ夏の一日をくり返してきたのだった。ネットワークに存在する<数値海岸>に、ホストである人類が訪れなくなり、それだけの年月が経過し、AIたちはこの夏の一日をくり返すしか術を持たなくなっていたのだ。 その日、鳴き砂の浜で二人が遭遇したのは、愛嬌のある<区界>の修理屋として馴染みのある<蜘蛛>に似た、しかし物体や現象を食い荒らす破壊のプログラムであった。この時