バスの中に執念深い元警官が乗っているということはわかったが、交渉には向いていないようだった。 十二月の風に身震いしながら目を開くと、目の前にはあかいくつバスが停留していた。運転手の顔を見て、またか、と思いながら俺はバスに乗り込んだ。 これで、六周目のバスになる。 警察は頼りにならなかったから、やはり自分の力でバスジャック犯をどうにかするしかない。 乗り込み、運転手に「港の見える丘公園で急ブレーキを踏んでください」と頼む。わけがわからないという顔をされたが、これからバスジャックが起これば、俺の意図を汲んでくれるだろう。 次は菜々子嬢のそばに移動する。さすがにもう、菜々子嬢のコーヒーをよけることはできた。 「あなたたちは駆け落ちをしていますよね?」「どうして知ってるんですか?」「俺は城ヶ崎家に雇われた探偵です。見逃す代わりに、協力してほしいことがあります」「なんでしょう」「町山さん、港の見える