僕の恋人は、温泉と渓流釣りが楽しめる静かな観光地で生まれた。 小学生のとき、父親の仕事の関係で引っ越して以来、ほとんど帰ったことがない郷里だという。 それでも、僕はプロポーズをする前に、彼女のルーツとなる地を訪れたいと思ったのだ。 駅の改札を出ると、目抜き通りの先に青々とした山が見えた。 歴史を感じさせる商店街は、店の数こそ多くないけれど、堅実に繁盛を続けてきた風格がある。土地の人の表情や話し方からは、芯の通った意志の強さと、控えめな親しみが伝わってきた。 これが、土地柄とか気風というものだろうか。 彼女に通じるものを感じて、僕はひとりうなずいた。 3年も付き合っているのに、僕たちはケンカらしいケンカをしたことがない。 努力家で優しい恋人に、時には本音をぶつけて欲しいと頼んでみても、困ったように微笑むだけだった。 けれど、彼女の生まれ故郷を歩きまわり、バスに乗って他の乗客のようすをながめた