中井正一『日本の美』、中公文庫、2019年(初版1952年)[併録の『近代美の研究』の初版は1947年] 「思想的危機における芸術ならびにその動向」(1932)では、文化の機械化と大衆化が思想の危機をもたらしたという通説が、近代における学問の専門化と職業化――「精神的機械化」――からの帰結として読み替えられる。真理は宗教から抽象されて、それ自体で自律した絶対的かつ純粋なものになったが、それとともに全体性を失って、専門分化してしまった。「科」学の成立だ。芸術もそれと連動して、普遍的な真理を模倣するものから多様な個性を創造するものになり、その形成基盤も技術から天才に移る。学問と芸術におけるこの全体性から多様性への変化を、中井は危機ではなくむしろ協働の新たな可能性の基盤と見なす。 テオドール・リップスの感情移入説で完成された個人主義的な美学の教説を、中井は「組織感」「事実感」「速度感」の三つの新