多くのテレビ局プロデューサーはいまも、ジャニーズJr.が寝泊まりしていた「合宿所」こと喜多川の自宅マンションで長年続いていたことに見て見ぬふりをする。 局内には、ジャニーズ事務所を怒らせることへの恐怖と忖度の入り混じった空気が漂っていると、あるキー局のプロデューサーは話す。誰に言われるともなく、喜多川のやったことは口にしてはならないという、暗黙の了解があるというのだ。 ジャニーズ事務所に入ったものの、売れっ子になるための代償を知って逃げ出した有名スターを知っていると、このプロデューサーは話す。
アル・ディアスを知っているだろうか? ディアスは2人組のグラフィティアーティストのひとりで、1970年代後半のニューヨークで活動した。ともに才能に恵まれていた2人は高校で出会った。 彼らがマンハッタン中にスプレーで描いたグラフィティは大きな反響を呼んだが、コンビを解消した後、ディアスはすぐにアート界から忘れられた。彼はいまも現役だが、キャリアの頂点は40年前だった。 一方、ディアスの相棒だったジャン=ミシェル・バスキアは、後に空前の成功を収めた。バスキアは1988年、27歳のときに薬物のオーバードーズ(過剰摂取)で急逝したが、いまでもその作品には数千万ドルの値がつく。 ではなぜ、この2人のアーティストは、まるで正反対の運命をたどったのだろう? 傑作とよばれる作品がある一方、忘却の彼方に消える作品があるのはなぜか? なぜ、ある歌手の楽曲だけが傑出して売れるのか? 広く反響を呼ぶ科学研究の影で
「ツイッター」を買収して「言論の自由」を獲得しようとしたり、ウクライナ戦争を終わらせるための“和平案”を提案したりと、何かと話題に事欠かないイーロン・マスク。もちろん、火星開拓への執着ぶりは変わらない。現在「ダイエット中」のマスクと英「フィナンシャル・タイムズ」紙の記者が、ランチをした。 イーロン・マスクとのディナーは、テスラでのドライブから始まった。テキサス州の州都オースティンで、私はマスクの2歳半の息子Xと並んで後部座席に座る。午後7時くらいだった。案の定、Xはぐずりだした。向かう先はマスクお気に入りのメキシコ料理店「フォンダ・サン・ミゲル」。 その前に私は同僚と、コロラド川のほとりに建つ「ギガファクトリー」を案内されていた。この巨大な生産工場で、テスラの最新小型スポーツ多目的車(SUV)の「モデルY」が生産されている。モデルYは世界で最も売れているテスラEVで、マスクを長者番付の首位
思いがけず動物たちのペニスをコレクションすることになった筆者。次第に真剣になっていき、ついには世界初にして最大のペニス博物館なるものを設立するに至る。ポルノ的要素はいっさいなしの、科学的で文化的、そしてユーモアに満ちたそのコレクションとは──。 私は人生のほとんどを生まれ故郷のアイスランドで、教師として過ごしてきた。60年代にエディンバラの大学院を卒業したが、70年代には首都レイキャヴィクの北にあるアクラネースという町で、歴史とスペイン語の教師に落ち着いた。 1974年のある夜、私は就業時間後に同僚の教師たちと酒を飲みながらブリッジをしていた。話題はアイスランドにおける畜産・酪農に移り、我々はこの業種が動物のあらゆる部位に使い道を見出すことについて語り合った。 たとえば羊。肉は食用となり、皮は服となり、腸はソーセージとなり、骨は子供のおもちゃになる。すると誰かが「ペニスには使い道があるかな
男性は絵を描くのが女性より10倍上手いのだろうか? ドイツ人の芸術家ゲオルク・バセリッツの意見を聞けば、そうなのかと思うかもしれない。 「女性は絵が大して上手くない。それは事実だ。市場は嘘をつかない」 バセリッツは2015年、「ガーディアン」紙にそう語った。市場は意図的に私たちを欺いているわけではないかもしれないが、たしかに男性の芸術家は女性の芸術家よりはるかに上手い、という印象を与えてはいる。 史上最高額で落札された絵画はレオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」で、4億5000万ドル(約600億円)で売れた。一方、女性の芸術家で史上最高額の記録を保持しているのはジョージア・オキーフで、たった4440万ドル(約60億円)とレオナルドの10分の1ほどだ。 もちろん、これは不公平な比較だ。人類史の大部分で、女性は男性と同じように芸術活動をすることが許されておらず、必然的に女性の巨匠
2010年12月、露店で果物を売っていた26歳の若者は、当局の嫌がらせに抗議して焼身自殺を図った。これがきっかけとなり、チュニジアでは腐敗した長期政権を打倒するため人々が立ち上がり、反政府抗議運動の波はアラブ世界全体に広まった。 しかし、「アラブの春」の発端となり、人々に抗議の火をつけた彼は、今や一部の国民から怒りすら向けられているのだという。 「誇りの象徴」から「呪われたもの」に 絶望のあまり彼がとった行動は、いまだにアラブ世界を揺るがしている。26歳の果物売り、モハメド・ブアジジの焼身自殺は、中東各地で革命の引き金となった。 チュニジアの首都チュニスには、彼の名がつけられた大通りがある。彼が住んでいたシディブジドには、地元政府の本部に面したところに、彼を描いた巨大な壁画がある。 彼は国家の腐敗と残忍さに抗議するため、自身に火をつけた。しかし、それから10年が経った今、チュニジアにおいて
「反響の大きさに驚いています」。石橋は、山梨県の自宅からのオンライン取材を通してこう語る。「でも、素晴らしい作品がそれに値する評価を受けるのは、とても嬉しいです」 インタビューはとても寒い日に行われた。石橋と彼女のパートナーで、頻繁にコラボレーションをしているジム・オルークの二人は、室内でもマフラーをぐるぐる巻きにしていた。ダイニングテーブルの向こうには、ドラム用のマイクスタンドが見える。二人は日々、それぞれの音楽プロジェクトに取り組んでいるという。 映画と同様、石橋によるサウンドトラックは、日本における一般的な映画の流行とは対局にある。「日本映画のサウンドトラックとは、隙間なく流れる甘ったるくエモーショナルな音楽のことです。どれもひっきりなしに流れる予告編のように聞こえます」と彼女は言う。 オルークが付け加える。「日本の映画産業においては、サウンドトラックを作る時間がほとんどありません。
今回のウクライナ戦争では、マッチングアプリ「Tinder」が本来の目的を超えて大活躍している。英メディア「アンハード」の記者が、主要SNSが禁止されたロシアの人々や、戦火のウクライナにいる人々とTinderで繋がってみると……。 SNSがダメならTinderで 自分の街のパートナー候補に満足できない人にとって、Tinder(ティンダー)の機能はおあつらえ向きだ。月18ポンド(約2900円)払えば、自分がそこにいなくても、世界中のあらゆる街に住む人々と繋がることができる。 すでに報道されてきたように、今回の紛争ではソーシャルメディアが大きな役割を果たしている。ウクライナの人々はスマホを使い、ロシア軍による恐ろしい体験を世に広めてきた。 しかしロシアでは、Facebook、Twitter、TikTok、Instagramのすべてが禁止され、ほとんどの市民にはフェイクニュースとプロパガンダだけが
デイヴィッド・ベネターは、約束の時刻のちょうど1分前にビデオ通話に接続した。礼儀正しく優雅に挨拶し、彼の新著に対する関心に感謝する──だが、コンピュータのカメラをオンにすることは拒む。 すでに彼からは、インタビューを承諾するうえで2つの条件を出されていた。まず、私生活に関する質問は一切しないこと。もう一つは、いかなる名目でも彼の顔が公開されないようにすることだ。 「私は自分の思想が異端であり、一部の人たちを憤慨させていることに気づいています」とベネターは言う。 「自分の生活について話せば、多くの人が私を心理分析し、私の思想をトラウマやら精神的不調やらのせいにしようとするでしょう。私が唯一目指しているのは、私を批判するという近道をとらずに、主張の妥当性を評価してもらうことなのです」 言うまでもなく、ベネターの思想は「正統」と呼べるものではない。ポジティブ心理学と自己啓発の「ベストセラー」が支
プーチンに大きな影響を及ぼす「ある人物」 「プーチンの思想的メンター」「プーチンのラスプーチン」と呼ばれる男がいる。プーチン大統領に大きな影響を与えてきたとされる、モスクワ大学元教授のロシア人哲学者アレクサンドル・ドゥーギン(60)だ。 「おおがらで、あごひげを蓄え、長髪で、ダンサーのように歩く。15ヵ国語を操り、ありとあらゆる本を読み尽くし、酒をストレートであおり、快活に笑い、知識の宝庫で、好人物」 スペイン紙「エル・エスパニョール」で、フランスの作家エマニュエル・カレールは、そんなふうに彼を描写する。 ドゥーギンは30代の頃、彼のことを「20世紀後半、最も偉大なロシアの哲学者」と呼ぶ学生や聖職者、ボヘミアンからなる熱心な支持者を集めていた。そんな彼らを前にドゥーギンは、神風特攻隊や三島由紀夫の話などを美談として語り、やがてロシア軍参謀本部の将校やロシア国防省の戦略家、そしてウラジミール
アンドレイ・グラチョフ(80)は、ソ連最後の最高指導者ミハイル・ゴルバチョフのもとで1991年12月のソ連崩壊まで報道官を務めた人物である。その後はパリに住み、ロシアの新聞社の特派員として活動した。なぜウラジーミル・プーチンは隣国に戦争を仕掛けたのか。根本にある要因を掘り下げて解説する。 ロシアと西側諸国は良質な関係を築けなかった ──ウラジーミル・プーチンの決断に驚きましたか。 プーチン露大統領はかつてソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的大惨事」だと言いましたが、そのプーチン大統領本人が躊躇なく自国を新たな地政学的大惨事へと突き動かしました。ウクライナの現状や国際社会で孤立を深めるロシアを見れば、まさに「大惨事」というべきです。 ただ、今回の戦争について、これを単にウラジーミル・プーチンの妄想じみたビジョン、常軌を逸したビジョンから生まれたものだと考えてはなりません。この危機は、錯乱状態の
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナに戦争を仕掛けるのか──。日に日に緊迫感が高まっている。だが、そもそもこうした「情勢」を作り出してきたプーチンの動機は何なのか? 世界的な歴史学者のニーアル・ファーガソンが、歴史家ならではの読み解きを展開する。 戦争が起ころうとしている。「とても喜ばしいとは言えない大北方戦争」だ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の心のなかではウクライナとの戦争は決まっている。 プーチンは2021年7月、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と題した長い論文を発表し、ウクライナが独立している現状は、歴史的に見ても持続不可能な異常事態という偏向した主張をしていた。 これを読めば、1938年のナチス・ドイツによるオーストリア併合のような形でプーチンがウクライナを獲ろうと考えていることは一目瞭然だった。それに、その論文が発表される前から、ロシアは約10万人の兵
いつの時代も、若者は最新のファッションを好むもの。環境意識が高いと言われるZ世代は、同時にファストファッションをこよなく愛し、数回着ただけでそれらを手放してしまう存在でもある。何が彼らを、このような矛盾した消費行動へとかき立てているのか。 1回着たら「さようなら」 英中部ノッティンガム出身の学生アレシア・テレスコ(21)は、同じ服を2回着てソーシャルメディアに写真や動画を投稿することはめったにない。 そんなわけで、2021年9月のはじめに、友人の誕生日を祝おうと新しいミニドレスをZARAで購入した。スパイラル模様がプリントされた70年代風のドレスで、価格は27.99ポンド(約4400円)だった。 テレスコはそのドレスを身に着けた写真に「親友との週末」とキャプションをつけ、インスタグラムに投稿。「いいね」が296件つき、ドレスはリセールアプリ「Depop」に出品されることとなった。テレスコは
人間は「時間に縛られた動物」 「グリニッジ標準時(GMT)」がこの世界に誕生したとき、各地で時計破壊運動が起きた。 それは、時計が一方的に押しつけてきた「時間」に対する怒りの表れだったが、現代社会に生きる私たちにしてみれば、こうした抵抗運動はなんとも奇異に思える。私たちの意識には、時計が押しつけた時間感覚がこびりついて離れないからだ。 時間(time)は、現代英語で使用頻度が最も高い名詞だ。教会の尖塔や市庁舎に時計の文字盤と針が登場して以来、時計は私たちの身近にある。職場や学校、家庭、私たちの腕、さらにはスマートフォンやノートパソコン、テレビ画面にも時計は組み込まれ、私たちは毎日それを見て何時間も過ごしている。 私たちの日々の生活に規律を与えているのも、時計が指し示す時間だ。労働時間と賃金はこの「時計時間」に従って決められ、自由時間も時計に従って厳格に管理されている。 さらに、人間の体の生
来襲するバナナ不安 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染したらどうしよう。経済はどこまで冷え込むのだろう。仕事は続けられる? 子供の教育はこの先どうすれば……。 パンデミックによるこうした「コロナ不安」に世界が悩まされているなか、あることを思い出して不安に駆られる女性がスコットランドにいた。彼女は5月12日にこうツイートしている。 Knowin there is a banana in my desk drawer in work, which has been there since a week before lockdown is makin me feel anxious. — MLB (@mlcoolj2) May 12, 2020 「ロックダウンの1週間前からデスクの引き出しにバナナが入れっぱなしなことを思い出して、すごく不安になってきた」 この「バナナ不安」ツイ
ロサンゼルス南部で野菜、花、果物を育てる“ギャングスタ園芸家”ロン・フィンリー Photo: Todd Williamson / Getty Images for Airbnb 黒人やラティーノが多く住む米ロサンゼルス、サウスセントラル地区に暮らす“ギャングスタ園芸家”ロン・フィンリーは、10年ほど前から道路の脇や空き地などでゲリラ的に野菜を育ててきた。 最初は「農薬まみれじゃないリンゴ1個買うのに45分も車を走らせなきゃならない」ことに対する彼なりの抗議行動だったが、いまではその活動はロサンゼルス中に広がり、数十のコミュニティ菜園が作られるまでになった。 英紙「ガーディアン」が取材した。 「俺は菜園に夢中になんだ」と、“ギャングスタ園芸家”として世界で知られるロン・フィンリーは言う。「朝9時に家を出て、気がついたら午後7時だ。畑仕事をしてると何もかも忘れる。みんな庭を耕すべきだ」 手入れ
今、世界から注目を浴びるオランダの若き歴史家ルトガー・ブレグマン(32)が、ベストセラーとなった前著『隷属なき道』を売り込んだ英「フィナンシャル・タイムズ」紙の記者と、オンラインでランチ。彼が思想にハマったいきさつから人間の本質についてまで、質素なサンドウィッチを片手に語り尽くした。 「材料は全部そろっている」 ルトガー・ブレグマンが声を上げる。そして、アイテムを一つひとつ、順に掲げてみせる。 「バター! いちばん大事な材料はピーナツバターだ。これはチーズ──オーガニックのやつ。そしてこれは古くからあるハウテンの村のミシェルという“本物”のパン屋のパン」 ブレグマンはくんくんと匂いを嗅ぐ。 「いい香りだ」 オランダ人の堅実さをこれでもかと主張する光景だ。薄くなりつつある髪を新型コロナ時代らしくボサボサのままにしたブレグマン(32)は、Tシャツとフリース姿で腰をおろす。彼は、ユトレヒトの南に
2019年のダボス会議が終わってから、さらに注目を集めている参加者がいる。オランダ人の歴史学者ルトガー・ブレグマンだ。日本でもTEDトークや著書『隷属なき道』などを通してベーシックインカム論者として知られている。 彼がパネリストとして参加したディスカッション「不平等の代償」のダイジェスト動画(NOW THIS NEWS)は現在、800万回近く再生されている。 なぜそんなに注目されているのか。全訳でお届けする──。 税金逃れを逃すな ルトガー・ブレグマン(歴史学者):ダボスには初参加です。しかしこれはどうしたもんかなっていうのが正直なところです。 だって、1500機ものプライベートジェットがここに飛んできて、われわれがいかにこの惑星をぶち壊しているかというデービッド・アッテンボロー卿の話を聴きにきてるわけです。 で、みんなが「参加」とか「正義」とか「平等」とか「透明性」って言葉でしゃべってる
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