お福はまだ三十前で半兵衛より年下であったが、長屋に嫁いで来た時から周りの嬶連中の影響で半兵衛の事を「半ちゃん」と呼んだ。半兵衛には己が侍だ等という矜持は無かったので、どう呼ばれようと気にならない。 仕事仲間は半兵衛の苗字と容貌を引っ掛けて川津半兵衛ならぬ「蛙(かわず)の半兵衛」と呼んでいた。奇しくも幼き頃からの渾名(あだな)と一致していた。半兵衛にとっては聞きなれた呼び名であった。 日雇いの仕事は幾らでもあった。大工仕事の手伝いや荷物運び、帳場の手伝いに代筆。父親同様に町道場の師範代も務めた。父と異なり幼い内から他流に触れたので、半兵衛は他流道場であっても器用に指導する事が出来た。 半兵衛が父から引き継いだ流儀は蛟(みずち)流と云う。何でも村上水軍所縁(ゆかり)の剣法だと聞かされたが、真偽の程は分からなかった。船上や水辺、雨の中で戦う事を本義とした流派で独特の心得が数多くあった。 陸(おか
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