不安の精神病理学とは「不安システム」の失調ないしは機能不全を意味するが、それは具体的にはT不安、D不安が病的に高まる状態として理解される。まずT不安が異常に高まる状況としては、トラウマ的な状況そのものが深刻で心に深い傷跡を残す場合である。トラウマ的な状況により生じるトラウマ記憶(より専門的には「恐怖関連記憶 Fear-Related Memoryと呼ばれる」が通常の記憶といかに異なる性質を有するかについては近年さまざまな研究がなされている。トラウマ的な状況で分泌が促進されるストレスホルモンは、扁桃体における情動的な出来事の刻印付けを促進すると同時に海馬の機能を抑制し、それが通常のエピソード記憶とは異なるトラウマ記憶の形成を促す。 トラウマ記憶はフラッシュバックの形で蘇る頻度も非常に高く、またそれに対する心の準備を行うまでには時間がかかる。そのために必然的にD不安も高まり、継続的に体験される