稲岡勝(明治出版文化史) 〇文献配達人坂本寛のこと もっとも著名な文献配達人といえば、本郷の古書店ぺりかん書房の品川力であろう。なじみの作家や学者のために必要文献を探し出して提供し続けたことはよく知られる。一方の文献配達人坂本寛はほとんど無名である。『書国畸人伝』の現代版ともいえる南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』(皓星社 2021年)にも載っていない。ことによると彼はシャイな性格故に取材を断ったのかも知れない。 坂本は早大文学部、図書館短大別科を出て東京経済大学図書館に就職。非凡なのは四十年の在職中有給休暇の全てを古書展通いに費やしたこと。それは退職後も続いて今日に及んでいるから、収集した図書雑誌類はとてつもない量にのぼることだろう。聞けば3LDKのマンション居室を書物蔵にして、夫子自身は親の家に移ったそうだ。蔵書にはどのような資料があるのか本好きなら誰でも気になるものだ。近代出版研究所の小