追求 まだ私が電機メーカーの研究所に勤務していたころだから今から20年も前のことになるが、資料室で学術誌を拾い読みしていて、ある強烈な論文を見つけた。それは権威のある物理学の論文誌に掲載されていたもので、著者はイギリスだかフランスだか忘れたが欧州の大学教授で、かなり高名な物理学者のようだった。その教授と助手の間に、このようなやり取りがあったに違いない。 「ブラックコーヒーとミルク入りのコーヒーでは、どうもミルク入りの方が冷めにくいように思うのだが、君、どう思うね」 「いや先生、それは気のせいでしょう」 「そうかなぁ。一丁調べてみるか」 ということで、研究が始まる。その様子を論文はあますことなく伝えているのである。 まずは、同じ温度、同じ量のブラックコーヒーとミルク入りコーヒーを同じカップに入れて用意し、同じ環境下に置いて温度変化を測定する。この結果、ブラックコーヒーの方が冷めやすいことが証