開高健の『食の王様』を読んでいたら、こんな一節に出会った。 食談も性談も皮一枚の差なのである。性を忘れて食談にふける人も、食を忘れて性談にふける人も、その識閾下にあるものはおなじであるように思われる。一つの根の二つの幹であるかと思われるのである。 (開高健 『食の王様』) 食欲と性欲。この二つの欲望について「一つの根の二つの幹であるかと思われる」と指摘している。開高健がそう述べる際に参照しているのが、安岡章太郎の『遁走』という戦争小説の、以下の一節だ。 内還の希望がうすれて行くにつれて加介は、あの色の黒い小柄な看護師の顔を何かにつけて憶い出すようになっていた。眼
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