タグ

書評に関するinunohibiのブックマーク (29)

  • ニコ・ニコルソン「呪文よ世界を覆せ」 短歌と出会い、人生が動き出す|好書好日

    歌集のヒットが相次ぎ、SNSには自作の投稿が引きも切らない。そんな空前の短歌ブームを背景にした〈短歌×お笑い×恋〉の三題噺(ばなし)である。 主人公は、漫才コンビ「虎蜂(とらんばち)」のネタ&ボケ担当・虎屋戸太郎(とらやとたろう)。相方だけがブレイクし、同棲(どうせい)中の彼女には浮気され、傷心のまま上がった舞台では客をドン引きさせてしまう。最悪の気分で思わず吐いた自嘲の言葉を耳にした通りすがりの女性に「今の短歌でしたね」と話しかけられたところから、停滞していた彼の人生が動き出す。 若くして短歌結社を主宰する彼女の気を引きたいがために訪れた書店の歌集コーナーで初めて接した現代口語短歌に戸太郎は衝撃を受ける。「たった31文字やのにワシの中に隠れてた欲望や感情が引っ張り出される」。凝縮された表現の力を知った彼は、お笑い界で下剋上(げこくじょう)を果たせるのか……!? 物語の展開はもちろん、テン

    ニコ・ニコルソン「呪文よ世界を覆せ」 短歌と出会い、人生が動き出す|好書好日
  • 青崎有吾「地雷グリコ」 心理戦・謎解き、圧倒の青春力|好書好日

    まさに破竹の勢いだ。 先月、わずか一週間の間に格ミステリ大賞、日推理作家協会賞、そして山周五郎賞を受賞。十一月の刊行のため、昨年の各種ランキングは対象外となったが、今年、冠はまだまだ増えるに違いない。 主に描かれていくのは、五つのゲームだ。主人公となる高校一年生の射守矢真兎(いもりやまと)がまず挑むのは、「地雷グリコ」。文化祭で一番人気の屋上に出店できるわずか一団体の座を摑(つか)むため、クラス代表として、常勝チーム生徒会と対戦する。 ジャンケンをして四十六段の階段を、パーで勝てばパイナツプルで六段、グーならグリコで三段と上がっていく。そこまではおなじみの「グリコ」だが、独自ルールとして各々(おのおの)三つの場所に「地雷」を仕掛けることができる。事前に相手が指定した段で止まると地雷を踏んだと見なし、十段下がらなければいけない。先に階段を上り切り勝者となるには、どんな手が有効なのか――

    青崎有吾「地雷グリコ」 心理戦・謎解き、圧倒の青春力|好書好日
  • 「21世紀の戦争と政治」書評 クラウゼヴィッツ後を読み解く|好書好日

    「21世紀の戦争政治」 [著]エミール・シンプソン 21世紀の戦争はいかなる変化を遂げるのか。19世紀前半に書かれたカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』を基に、自らの実体験を踏まえ、研究者としての立場から論じた書である。クラウゼヴィッツの理論では見通せなくなった時代の戦争論と政治論だ。 書には二つのキーワードが頻出する。「ナラティヴ(物語)」と「オーディエンス(対象者)」である。戦争を正当化する言い分と、戦争に関わる人々との意味になろうか。戦争は「敵」と「味方」からなる、というクラウゼヴィッツの二元的発想を超えているのだ。 著者は、英国の王立グルカ連隊の小隊長としてアフガニスタン紛争に従軍した。戦略ナラティヴの重要性を知り、オーディエンスとの接触でクラウゼヴィッツの理論が必ずしも及ばないと知る。 クラウゼヴィッツの『戦争論』は、理性擁護の啓蒙(けいもう)主義からロマン主義に向か

    「21世紀の戦争と政治」書評 クラウゼヴィッツ後を読み解く|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2024/06/03
    "クラウゼヴィッツの『戦争論』を基に、自らの実体験を踏まえ、研究者としての立場から論じた書である。クラウゼヴィッツの理論では見通せなくなった時代の戦争論と政治論だ。"
  • 「『社会の未来』を読む」/「『社会問題の核心』を読む」書評 精神を基盤につながりの回復を|好書好日

    「『社会の未来』を読む」/「『社会問題の核心』を読む」 [著]高橋巌 かつて書の著者が翻訳した『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』でシュタイナーの思想を知った身としては、かくも現実離れした思想が、どのように「社会」と接続されるのか、いささか疑わしく思いながら手に取った。ところがどうだろう。その語り口は意表をつかれるほど具体的でわかりやすい。 これは、第1次世界大戦のあとで、シュタイナーが持てる力のほとんどを社会問題に費やしたのが大きい。しかしそれだけではない。著者はどこまでも現在の日社会が抱える生々しい課題と擦り合わせながら説く。 たとえば、この世は金がすべてなのか?という身も蓋(ふた)もない問いかけだ。人生が有限なら、死ねばすべてが無に帰すのだから、生きているうちにできるだけいい思いをしたほうがよい。ところが、そのような考えにいかに科学的な合理性(書ではそうまとめられている

    「『社会の未来』を読む」/「『社会問題の核心』を読む」書評 精神を基盤につながりの回復を|好書好日
  • 川添愛「世にもあいまいなことばの秘密」 本のふりした筋トレで遊べ|好書好日

    「日語はおもしろい」「日語は難しい」などの言説を聞き飽きて久しい。僕が普段いるお笑いの界隈(かいわい)でも、「言葉遊び」を軸にしたネタは、かつてほど流行(はや)っていない。偉大な先人らによって、あらかたやり尽くされてしまったのだ。個人的に「日語を面白がること」の賞味期限は切れかかっていた。そして、書はどうやらその文脈のである。正直、傷気味だと思った。 しかし、ぱらぱらと読んですぐ降参した。グエーと変な声が出た。類書と比して、具体例が多すぎるのだ。なるほど、そう来たか。そういう差別化があり得たのか。 書では「この先生きのこるには」「冷房を上げてください」「頭が赤い魚をべる」「シャーク関口ギターソロ教室」など、あいまいさを含む表現が大量に取り上げられ、一つ一つが文法的な説明によって解き明かされていく。それもテンポが速い。新書というより問題集のようなテンポである。なんなら章末に

    川添愛「世にもあいまいなことばの秘密」 本のふりした筋トレで遊べ|好書好日
  • 宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」 自由すぎるこの人生を見よ|好書好日

    近代までの文学は、主人公の名前がタイトルになっている作品が多い。文学の役割の一つは、ロールモデルを提示することだったからだ。読者は主人公の人生をお手にしたり、時に反面教師とすることで、実人生における学びや気づきを得ていた。だが、現代社会は個々人の生き方があまりにも多様で、共有できる価値観を表現するのは難しい。タイトルに主人公の名前を冠した「この人を見よ!」タイプの小説は、近年あまり書かれなくなった。 そんな状況下で突如現れたのが、宮島未奈のデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』だ。物語の舞台は、琵琶湖に面した滋賀県大津市膳所。成瀬あかりが中学二年生から高校三年生へと時を重ねていく中で、その時々の彼女が生み出した伝説や自由すぎる言動の数々を追いかける。それらは笑いを招くものでもあるのだが、成瀬のような考え方で人生と向き合い、人と接することができたなら――という憧憬(しょうけい)もまた読者に引

    宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」 自由すぎるこの人生を見よ|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2024/06/02
    "タイトルに主人公の名前を冠した「この人を見よ!」タイプの小説は、近年あまり書かれなくなった。  そんな状況下で突如現れたのが、"
  • 「どれほど似ているか」書評 社会を照らすフェミニズムSF|好書好日

    「どれほど似ているか」 [著]キム・ボヨン ここ数年、韓国のSF界が活況を呈している。日でも、キム・チョヨプやチョン・ソンランのが次々と翻訳されてきた。キム・ボヨンは、その中でも早くから活動しており、英語圏でも注目を集める作家だ。 近年の韓国におけるSFブームの特徴は、フェミニズムSFの放つ存在感にある。多くの作家が、ジェンダーの視点を取り入れて女性差別や家族の問題を描く。「男性が宇宙船に乗って戦争に行く」といった古風な物語に慣れていると、新鮮な驚きに遭遇するだろう。 表題作の「どれほど似ているか」は、このフェミニズムSFの手法を用いた作品だ。物語は、ある宇宙船のAIが人型の義体に転送されて目覚める場面から始まる。この船には土星の衛星にある基地に救援物資を届ける任務があるのだが、男性の船員たちはAIと協力して任務に取り組むどころか、露骨な敵意を向け、暴行を加える。 一体、なぜ彼らは自分

    「どれほど似ているか」書評 社会を照らすフェミニズムSF|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2023/07/16
    ”一体、なぜ彼らは自分を敵視し、暴力を振るうのか。なぜ自分はこの体に転送されたのか。AIは状況を理解しようとするのだが、なぜか理解できない。実は、そのこと自体にも驚くべき理由が隠されている。”
  • 山田金鉄「かさねと昴」 「らしさ」の呪縛逃れ、尊いラブコメ|好書好日

    法に触れるような行為でない限り趣味に貴賤(きせん)はないはずだが、世の中的に大っぴらにしづらいことはある。作の主人公の一人・榎田昴の場合もそうだ。ブラック企業で心身ともに疲弊していたとき、偶然見つけた忘年会グッズのカツラを被(かぶ)ってみたら心が安らいだのをきっかけに女装するようになった。 誰にも言わない秘密の趣味。ところが、転職先の会社の同僚女子・柴田かさねに、ちょっとしたアクシデントからの流れで打ち明けることになる。女装姿の写真を見せ、「これは僕です」と告げたときのかさねの反応が素晴らしい。「えっ」と驚きつつもまったく引いたり取り繕ったりせず、目を輝かせて「すっごいかわいいです!!」と絶賛するのだ。 偏見がないどころか全肯定。これには昴も面らうが、そういう人だと思ったからこそ打ち明けたのだろう。そこから始まる二人の交流が主題。女装趣味でも心も女性とは限らない。男らしさ女らしさの呪

    山田金鉄「かさねと昴」 「らしさ」の呪縛逃れ、尊いラブコメ|好書好日
  • 「動物がくれる力」書評 過酷な状況で出会う新しい自己|好書好日

    動物がくれる力 教育、福祉、そして人生 (岩波新書 新赤版) 著者:大塚 敦子 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット 「動物がくれる力」 [著]大塚敦子 動物は私たちに深い安らぎを与えてくれる。だが、書の「動物がくれる力」は、さらにその先にある。平常時よりもむしろ、人生を左右するような困難に直面したとき、真価が発揮されるというのだから。逆ではないか、と感じるかもしれない。心穏やかな暮らしがあるからこそ、愛玩動物としてのペットたちも生きてくるのではないのか、と。 ところが著者は国内外、30年にわたって取材を続け、この力を目の当たりにしてきた。しかも、その場所は小児病棟や高齢者施設、少年院や刑務所といった、社会のなかでも病や死、償いや更生といった負の性質を帯びた社会の「辺境」だった。そうした過酷な状況のなかで、当事者たちは保護犬をはじめとする今ある社会の負を背負った動物たちと

    「動物がくれる力」書評 過酷な状況で出会う新しい自己|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2023/06/19
    ”犬や猫だけではない。この力は「ペット」というより「家畜」と呼ばれてきた動物たち――人との繫(つな)がりではかつて犬と同等か、それ以上に身近で欠かせなかった馬の事例にはとりわけ目を見張る――にも”
  • 佐々木良「愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集」 SNS的感性が共感を呼ぶ|好書好日

    『万葉集』と聞けば、遠い存在に感じてしまう。古典の授業や日史の教科書に登場した、なんだか難しそうな歌集。それが万葉集の世間一般のイメージなのではないだろうか。しかしそんな印象を一変させるがある。高松で出版社を立ち上げた著者による、『万葉集』を現代語に訳した書である。 たとえば「白栲(しろたへ)の袖の別れは惜しけども思ひ乱れて許しつるかも(巻12・3182番)」の和歌を書はこう訳す。「あんたに別れ話をされたとき『ほな別れたるわ!!』って即レスしたけど正直やってもうた!て思てる」……たしかに「白栲の袖」「思ひ乱れて」などの古語では伝わりづらい感情も、「即レス」「やってもうた」などの現代語を使われると、なるほどそういうことか、と微笑(ほほえ)ましく感じられる。万葉集の歌が、これまでになく身近に迫ってくる。そして「和歌って、現代のSNSやLINEの文面みたいなものなんだな」と気づかされる。

    佐々木良「愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集」 SNS的感性が共感を呼ぶ|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2023/05/17
    “「ふざけて書いた本なので『こんなん誰が買うねん』と初版は500部。だんだん注文が増え、今では刷っても刷っても間に合わない」と著者。”
  • 外交戦略の本質を読み解く「インドの正体」 詫摩佳代が選ぶ新書2点 |好書好日

    『インドの正体 「未来の大国」の虚と実』 ロシアウクライナ侵攻以降、インドの動向に世界の注目が集まっている。実際どのような国で、どう付き合っていけば良いのだろうか。伊藤融(とおる)『インドの正体 「未来の大国」の虚と実』(中公新書ラクレ・902円)は、この国の外交戦略の質や昨今の傾向を読み解いていく。インドは価値観や対中国認識に関しては欧米各国や日と相いれない部分こそあるが、それでも中国ロシアに比べれば我々に近い国であり、とりわけ経済安保分野でのアジア太平洋諸国との連携強化に可能性を見る。 ★伊藤融著 中公新書ラクレ・902円 『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』 笠井亮平『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』(文春新書・1100円)も、その外交戦略を論じる。印中関係のダイナミズムは、陸ではユーラシア、海ではインド太平洋

    外交戦略の本質を読み解く「インドの正体」 詫摩佳代が選ぶ新書2点 |好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2023/05/11
    "2冊からは、極めて現実的な視野で多角的な外交を展開する #インド の姿が浮かび上がる。"
  • BTSに至る歴史を紹介する「K―POP現代史」 杉田俊介が選ぶ新書2点 |好書好日

    『K―POP現代史 韓国大衆音楽の誕生からBTSまで』 山浄邦『K―POP現代史 韓国大衆音楽の誕生からBTSまで』(ちくま新書・946円)は、K―POPの国際的人気を「国内市場が狭い」「国家の後押し」等(など)の短絡的理解ではなく、韓米日の一〇〇年以上の歴史に根差す豊かな達成として論じる。その背景には苦難の中で自由を模索した大衆たちの姿がある。近年のK―POPは政治的自由と民主化を求める「闘う大衆音楽」であり、多国籍的な異種混交性を解き放つ。山文化の抑圧に抗(あらが)うファンコミュニティーの力が大きかったと強調する。歴史の学びで「推し」の愛もさらに豊かになる、と確信させてくれる見事な一冊だ。 ★山浄邦著 ちくま新書・946円 『「イクメン」を疑え!』 関口洋平『「イクメン」を疑え!』(集英社新書・990円)は、『クレイマー、クレイマー』『ミセス・ダウト』等の映画を題材とし、複雑な

    BTSに至る歴史を紹介する「K―POP現代史」 杉田俊介が選ぶ新書2点 |好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2023/05/11
    "関口洋平『「イクメン」を疑え!』(集英社新書・990円)は、(…)複雑なケアネットワークを切り詰めて「父親が育児に参加すれば問題は解決する」と言いたげなイクメン言説を批判的に検証する。"
  • 3人の生と思想を群像劇として描く「社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ」 杉田俊介が選ぶ新書2点|好書好日

    『社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ』 中嶋洋平『社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ』(ちくま新書・968円)は、三人の「空想的社会主義者」の生と思想を群像劇として描く。しかし「空想的」あるいは「社会主義」という言葉は、後年からのレッテルのようなもので、彼らは現代で言えば「社会企業家」や「社会プランナー」のような存在だった。著者はそう述べる。重要なのは、フランス革命後の混乱と産業革命による不平等化の中で、彼らが貧富や立場の違いを超えた「すべての人びと」の「連帯・協同」を、そして安定した「社会」の新しい秩序を求めたことだ。「前夜」という感覚は、今、異様に生々しい。 ★中嶋洋平著 ちくま新書・968円 『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』 土居伸彰『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社新書・990円)は、世界のアニメ史を踏まえつつ、スタジオの集団作業ではなく自主制

    3人の生と思想を群像劇として描く「社会主義前夜 サン=シモン、オーウェン、フーリエ」 杉田俊介が選ぶ新書2点|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2022/11/23
    ”土居伸彰『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社新書・990円)は、世界のアニメ史を踏まえつつ、スタジオの集団作業ではなく自主制作的な「個人作家」を出自とする新海の特異性を分析する。”
  • 「陰謀論」受容のメカニズムを科学的に解明 三牧聖子が選ぶ新書2点|好書好日

    『陰謀論』 社会に蔓延(まんえん)する陰謀論や虚偽情報が民主主義を脅かしている。真理が見えない時代を科学や哲学はどう照らすのか。秦正樹『陰謀論』(中公新書・946円)は、人間が陰謀論を受容するメカニズムを科学的に解明する。人間は自分の信念や認識の正しさを肯定してくれる説に惹(ひ)かれ、疎外感から陰謀論がもたらす肯定感に癒やしを求めてしまう。陰謀論が人間の性質に深く根ざしたものである以上、その根絶は不可能だ。著者は、自分が信じる「正しさ」に固執しすぎない「ほどほど」の姿勢が、陰謀論に対する防波堤になるとする。 ★秦正樹著 中公新書・946円 『スピノザ 読む人の肖像』 國分功一郎『スピノザ 読む人の肖像』(岩波新書・1408円)は、デカルト哲学を徹底的に読み、それを継承しながらも批判的に検討し続けた「読む人」スピノザの人生と哲学を壮大に描き出す。スピノザの真理観は、私たちに真理についての根

    「陰謀論」受容のメカニズムを科学的に解明 三牧聖子が選ぶ新書2点|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2022/11/23
    ”秦正樹(…)は、人間が陰謀論を受容するメカニズムを科学的に解明する。人間は自分の信念や認識の正しさを肯定してくれる説に惹(ひ)かれ、疎外感から陰謀論がもたらす肯定感に癒やしを求めてしまう。”
  • 菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』 戸惑い、もがきながら前向く|好書好日

    時代を越えて多くの人を救い、その一方で激しい対立を生んできたもの――。「宗教と聞いて何をイメージする?」と世に問えば、摂取した情報の多寡も手伝って、あらゆるフィルターがかかった答えが返ってくるだろう。では、「宗教2世は」と問われたら? 作には、著者を含め7人の異なる宗教信者の2世が登場。親が信仰する教えを疑わなかった幼少期を経て、少しずつ社会に触れてギャップに戸惑い、憧れや楽しみを押し込め、絶望し、もがきながらも前を向く様子が描かれる。抑制を利かせた演出ながら、未成年の彼らを縛る鎖の重さに胸が締め付けられた。 巻末に付記された著者の言葉によると、作は某宗教団体からの抗議を経て連載中断。その後、別の版元から刊行された経緯を持つ。教義の解釈ではなく、個人にフォーカスをあてた作品でさえ発信することが難しいという事実が、彼らの生きづらさを物語っている。 先日、日脱カルト協会が宗教2世の支援を

    菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました 宗教2世な私たち』 戸惑い、もがきながら前向く|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2022/11/22
    ”本作は某宗教団体からの抗議を経て連載中断。その後、別の版元から刊行された(…)教義の解釈ではなく、個人にフォーカスをあてた作品でさえ発信することが難しいという事実が、彼らの生きづらさを物語っている”
  • 新科目への取り組み方を紹介する「理数探究の考え方」 佐藤健太郎が選ぶ新書2点|好書好日

    『理数探究の考え方』 年度より、高校の科目に「理数探究」が加わった。教師から一方的に教わるのではなく、生徒が自ら課題を設定し、観察や実験、議論を通じて探究を行っていくという科目だ。石浦章一『理数探究の考え方』(ちくま新書・946円)は、専門の研究者の視点から、この新たな科目への取り組み方について語った一冊。といっても内容は高校だけでなく、小学校から大学院まで理科教育全般にわたる。科学を支える確率的思考、信頼できるエビデンス、科学リテラシーといったわかりにくい事柄について、それぞれ事例を挙げて述べており、理科教育関係者以外にも参考になるところが多いだろう。 ★石浦章一著 ちくま新書・946円 『分子をはかる がん検診から宇宙探査まで』 原子には個性がないが、これがいくつか集まって分子を作ることにより、固有の性質を示すようになる。そこにある分子が何なのか突き止めることは、多くの科学技術分野に

    新科目への取り組み方を紹介する「理数探究の考え方」 佐藤健太郎が選ぶ新書2点|好書好日
  • 中北浩爾「日本共産党」 イメージと裏腹、変化の歴史|好書好日

    共産党ほどイメージが先行する政党もなかなかないだろう。「共産主義」や「共産党」と聞くだけでおどろおどろしく、縁遠く感じる人も少なくない。 その強力なイメージは、日政治の風景を裏から規定してきた。政財界における共産主義への警戒感は自民党への支持に結びついてきた。旧統一教会と自民党との繋(つな)がりもその一端に過ぎない。非自民勢力でも、昨今の野党共闘に見られるように、日共産党が結集に加われないのみならず、そのイメージが他党を分断することもある。 ただし、その先行するイメージとは裏腹に、日共産党の実態がどこまで知られているか、心許(こころもと)ない。非合法時代に限らず機密が多く、また国際的な連関も多いだけに、バランスのとれた入門書もなかったから、仕方ないといえば仕方ないのだが。 そんななか、社会党を中心にした研究からスタートして、近年、自民党や自公政権について定評ある新書を刊行してきた

    中北浩爾「日本共産党」 イメージと裏腹、変化の歴史|好書好日
  • 櫛木理宇 「死刑にいたる病」 「心の闇」暴かれるのは自分|好書好日

    凶悪殺人を語る際に安易に使用されがちな言葉のひとつに「心の闇」というものがある。殺人者の心には我々には想像もつかぬほど深く濃い闇があるに違いないという意識のあらわれだろうか。実際には全ての人の心にひとしく闇があるのだが、それを認めることには抵抗がある。だから皆、殺人者の「心の闇」を知りたがる。闇をライトで照らし、異常性を見つけだそうとする。 一方で、殺人者と自分の共通点を見つけることに仄(ほの)暗い愉悦を覚える者もたしかに存在する。『死刑にいたる病』の主人公、筧井(かけい)雅也は後者だった。 かつては優等生だった雅也は、今はさえない法学部の学生として屈(うっくつ)した孤独な日々を送っている。そんな彼に一通の手紙が届く。差出人は榛村(はいむら)大和。二十四件の殺人容疑がかけられている男だ。警察が立件できたのは二十四件のうち九件のみ。大和は九件のうち八件の容疑を認めたが、九件目の事件だけは冤

    櫛木理宇 「死刑にいたる病」 「心の闇」暴かれるのは自分|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2022/06/28
    ”凶悪殺人を語る際に安易に使用されがちな言葉のひとつに「心の闇」というものがある。殺人者の心には我々には想像もつかぬほど深く濃い闇があるに違いないという意識のあらわれだろうか。”
  • 「職業としての官僚」/「現代官僚制の解剖」 改革の道筋ただし再生策を探る 朝日新聞書評から|好書好日

    ISBN: 9784004319276 発売⽇: 2022/05/23 サイズ: 18cm/246,20p 「職業としての官僚」 [著]嶋田博子/「現代官僚制の解剖」 [編]北村亘 有権者が選挙で政治家を選ぶ。その政治家が、有権者に選ばれていない官僚を統制する。 3者のこうした関係を現代の民主政治の核とみなすのが、従来の教科書的な説明だ。そして、この理屈が「政治主導」や「官邸主導」を正当化してきた。しかし、いまや官邸主導の弊害が語られる。官僚については、志願者減少や離職が顕著で、制度の持続可能性すら問われている。 『職業としての官僚』は、人事院に長らく勤務した嶋田博子が、聞き取りや国際比較もふまえながら、官僚の現状とあるべき姿を論じた好著だ。社会にとっても、働く人にとっても望ましい、官僚制のあり方を探る真摯(しんし)な熱意が全編を貫いている。 官僚の仕事は、この20年で変貌(へんぼう)した

    「職業としての官僚」/「現代官僚制の解剖」 改革の道筋ただし再生策を探る 朝日新聞書評から|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2022/06/28
    "官僚については、志願者減少や離職が顕著で、制度の持続可能性すら問われている。"
  • とよ田みのる「これ描いて死ね」 ひたすら「マンガ好き」のびのびと|好書好日

    これを完成させないうちは死ねない。執筆中に手応えを感じているとき気でそう思うのだと、マンガ家から聞いたことがある。だから外を歩くときも交通事故が恐(こわ)いので危険な通りを避け、心臓への負担を考えて熱いお風呂にも入らない。書の題名は、これと表裏一体の気持ちなのかもしれない。 主人公は都会から離れた島に住む高校1年生。生きていく上でマンガを読むことが心の支えになっているほどのマンガ好きだ。ある時マンガは読むだけではなく、描くものでもあるのだという当たり前のことに気づいてしまい、周囲を巻き込みながら創作の道へと踏み出していくさまが描かれる。 心に残るのは、主人公がひたすら「マンガが好きだから描く」のをまっすぐ表現しきっていることだ。素朴でシンプルな気持ちを、ここまでぐいぐい読ませる著者の力もみごとだが、改めて時代の変化も実感する。マンガ家になれなかったらマンガを諦めることが、ひと昔前までは

    とよ田みのる「これ描いて死ね」 ひたすら「マンガ好き」のびのびと|好書好日
    inunohibi
    inunohibi 2022/06/10
    "本作は「マンガ家マンガ」ではなく、単に「マンガを描くマンガ」として、すがすがしい読後感を与えてくれる。"