唐木順三は『現代史への試み』のなかで、明治を修養の時代と特徴づけたのと対照的に大正を教養の時代と見た。その心は、前もってプログラムされた知の型の代わりに各人が古今東西の書物を読み解くことで知的完成を目指す型なしの自由にある。いわゆる大正教養主義の理解である。無型の自由はいまもってなお、トンデモの疑惑とともに学者を警戒させ、さらには多くの独学者さえも怯(おび)えさせてやまない。学んでも学んでも、なにかが欠落しているのでは、という不安が拭えない。 学習の技法を体系化させることで早くも古典の風格さえまとう『独学大全』は、この無型の自由を脅威としてではなく可能性として受け止めるための新たな型を提供している。本書を読む者は、七〇〇ページを越える大ボリュームとバラエティ豊かな五五の技法すべてに精通する必要はない。場合によっては、技法35「掬読(きくどく)」(必要な部分だけを読む)で済ますことすら勧めら