(前回から読む) 父の権威への抵抗 ここで、ローマの皇帝の命令を拒み、自分の信仰を捨てることを拒んだ古代のキリスト教徒たちの受動的な抵抗のありかたを、ある殉教者の「伝記」から調べてみよう。この物語は、迫害の激しかったカルタゴで二〇三年頃に実際に起きた出来事として語られているものである。 育ちのよい女性であるペルペトゥアは二二歳で、懐妊しており、洗礼志願者だった。ある日、多数の友人や奴隷たちとともに、「キリスト教徒」という名のもとで、いかなる悪事も犯さずに逮捕された。ペルペトゥアは「結婚したばかり」らしいが、この物語ではペルペトゥアの夫、赤子の父親については一言も触れられていない。 慌てた父親が牢獄を訪れて「ペルペトゥアへの愛から」[1]、ペルペトゥアに改心を求める。ペルペトゥアはそこにある花瓶を指差して、「この花瓶を花瓶以外の名前で呼べますか」と尋ねる。父親が否定すると、「ではわたしは、わ