井上達夫氏から、新著『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(毎日新聞出版)をお送りいただいた。その内容についての評価は、時局がら厳しくならざるを得ない。ここでは厳密な書評というより、時局論として限定的な批評をしたい。事態はそれほど切迫しているからである。それ故、問題を憲法9条の問題に絞って論じることにする。 全体として、政治的センスの欠けた空論という印象である。ひょっとしたら、「リアリティ」に流されて規範的議論に欠けがちな我が国の論争状況において、わざとそうふるまっているのかと錯覚してしまうほどである。 憲法9条についての空論――それはその歴史的沿革を無視して条文だけに拘泥することによる。解釈の対立が生ずる場合、憲法の精神(憲法の政治哲学)に立ち返って、参照することが必要である。 ところが日本国憲法の場合、難しい問題がある。一つは戦争放棄であり、もう一つが天皇